「あるがまま」について

ベルーフにはITに関する本や、心理療法関係、エッセイなどが相談室の壁面に多数置かれています。先日、私はその中から「森田療法」岩井 寛著(精神医学、精神病理学、医学博士)をお借りして読みました。帯に「誰もが実践出来るメンタル・ヘルスのヒント!」と書いてあり新書版で1センチぐらいの厚みで読みやすそうな感じの本です。

「森田療法」を創始した森田正馬は神経質症(脅迫観念など)の治療に独自の精神療法を実践した人で、著者の岩井博士は「森田療法」を今日的な意義をからめ自身が診察した事例などをあげ変容していく患者を紹介しています。
詳しい内容は読んで確かめて頂きたいと思いますが、「あるがまま」という言葉のとらえ方が私には響くものがありました。

人間の欲望には二面性があり、より楽なほうに逃避したいという欲望、例えば対人恐怖がある場合、緊張するから人を避けて部屋にいたいと思う気持ちと、現在抱えている病気の症状がなければ実現できると考えている本来の目的や希望の事です。
どちらもあって当たり前で、両方の相反した気持ちが根底にあり、不安や苦痛を「あるがまま」受け入れ、それを排除せず、持ち続けながら後者の目的本位の方向に向けて一歩踏み出す行動を実現させるといった内容です。

ただし、あくまでそれを選ぶのは自分自身であるという事で、結果として前者を選択した場合は、その場に留まる事であり、後者を選択した場合はそれまでの自分とは異なった行動の積み重ねが自信となって不安や症状に振り回されない自分を作り上げていくと岩井博士は言っています。
文中にあるL氏の事例では、有能な銀行マンで十分な業績を上げていたにもかかわらず、ちょっとしたミスをきっかけに心のバランスを崩してしまう話が紹介されています。
L氏には以前から人前で緊張して身体や手が震えるなどの症状がありましたが、ミス以降、より強くそれらが多く出現し、「今まで何とか自分なりにカバーしていたが、もう限界です。」と訴えると、岩井博士は「あなたは今ここで本当の心を見つめてごらんなさい。今まで築いてきた地位や立場を捨て楽な仕事に移りたいのか、それともいろいろな苦しさがあっても、自分の能力をフルに発揮して真の欲望を生かしたいのかを」と尋ねました。
L氏は「自分を銀行の最前線で生かしたいのが本音だが今は、手が震える苦しさが人生の全てなのでそれが治らないのなら、あらゆる事を捨ててしまいたい心境です」と答えましたが、岩井博士の発言の真意を徐々に自分なりに考えていくうちに、L氏はどうせ苦しいのなら“自分の真の欲望を生かしていく”という方向に踏み切ることにしました。
絶体絶命の縁に立っていたL氏でしたが、数ヶ月後、岩井博士に「自分が劣等感にしている症状をそのままにしておくことは、たまらなく苦しいことです。しかしその一方で症状をあるがままにしながら、より良く目的を果たすよう努力し、それが実現できたときには、心から喜びを感じます。気がつくと症状そのものも少なくなっています」と報告に来たのです。
私は「あるがまま」とは、周りからこう見られているに違いないといった思い込みや、こうあらねばならないといった事から解放され、冷静に自分を見つめ、何を目的に、これから生きるのか、ということかなと未熟ながら感じました。もし、興味があったら読んでみて下さい。
生活支援員 SB CAT

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